刊行にあたって

晶文社


 人と社会の核心にある問題へむけて、いつも深く垂鉛をおろして考えつづけてきたのが吉本隆明さんでした。

 それは、敗戦の衝撃から六〇年安保を経て、七〇年代の地滑り的な社会変動がいまも拡大進行している大衆消費社会の現在にまでおよんでいます。

 文学と思想の両翼にわたる体系的な思索と力動的な考察は、多様な領域と主題をめぐって精力的になされつづけてきましたが、徹底的に突き詰めるその言説によって、たえずポレミカルな緊張をはらんでいました。その時々の象徴的な論争をはさみながら、共感と反発をたくさん生み出してきましたが、つねに危機の淵にはっきりした足跡を印そうとするその著作の規模と深度は、同時代にひときわ抜きん出たものであったと思われます。

 轟々たる論理が苛酷に展開される長編の書物においても、さりげない片々たるエッセイにおいても、紛れもなくどこまでも吉本隆明さん自身でありつづけたその著作の集積のすべてを、いまここに「全集」としてまとめ、読者のみなさんにつつしんで提出いたします。

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