こころ
うれしく待つ。

糸井重里


 ある人のことを、まるごと知りたいと思うことって、そんなにはないと思うのです。

 もの書きの「全集」を揃えようとすることは、「その人をまるごと知っておきたい」という気持ちがあるからだと思うのです。

 そして、しかも、「全集」を買って揃えて、まるごとぜんぶを読むということも、あんまりないような気もします。研究者でもなければ、全集をすべて読むなんてことは、しなくて普通なんじゃないかとも思います。

 あるもの書きの「全集」を編んで世に問おうとする人がいることと、それを待ちかまえたように買おうとする人がいることは、読む読まないさえも超えて、その「もの書き」が、人びとに「まるごとを知りたいと思わせる人」だったということなのでしょう。

 吉本隆明さんのまるごとなんて、家族だって、ご当人だって知れるはずもないのだけれど、近々「全集」が揃えられるとなると、ぼくは祝い事のような気持ちで、その日を待ってしまいます。

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