思想の洗礼を授けてくれた書は『擬制の終焉』であった。やがて吹き荒れる時代の只中で、詩集『転位のための十篇』をいきいきと体験する。「ぼくがたふれたらひとつの直接性がたふれる/もたれあふことをきらつた反抗がたふれる」。状況が言葉を蘇らせたのだ。
関東大震災の翌年、東京湾、隅田川を臨む東京市京橋區月島に生まれ、人家密集する路地の一郭に住まい、売文をもって生業とし、原発事故を体験した翌春、旅立ってゆかれた。思想の核のどこかに船大工の倅の心意気と生粋の東京ッ子の矜恃(道理への義理堅さ「よせやい」「冗談じゃあねえよ」)があった。宵越しの金は持とうとはしない気風は、その生き方をつらぬいた。
人はいかに生き、いかに死んでゆくか。全集刊行と同時に、単行書籍三百册に籠めた葛藤と慟哭と叡智と決断、その膨大な言葉たちが、危機の時代を新たな相貌を以て語り始めてゆくのだ。
敗北の涙ちぎれて然れども
凛々しき旗をはためかさんよ